2017年03月13日

募金終わりました!

こんにちは日下です。

鬼神館殺人事件で得た利益を募金しました!
元々その予定で作成した作品でしたので。

やっとできましたよ。
本当にもう、いつするんだよって感じでしたね。

でも完売できましたし、利益の出た2万円を災害区域の復興支援として募金しました。

記事にしたのは、したよって宣言しとこかなと。

それだけっす!

無題.png
posted by 日下稔 at 19:00 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2017年03月06日

君の瞳に映る世界は・・・(小説・改)

【序章】

 ぎりり、ぎりりと音が鳴っていた。
 音が徐々に近づいてくる。
 目を開けようとした。
 けれど、できなかった。
 身体を上から圧(お)されている。そんな感じだ。
 目を開かなくては。
 充満するガスの匂い。耳に届く悲鳴。ここから逃げなくては。

 ――誰か……

 音にならない言葉が唇から零れていく。

 ――ここにいるから。

 だから見つけて。
 救い出して。
 こんなところで人生が終わるなんて、そんな悲しいことはないだろう。



【一話】鮮やかなモノクロ



 久住恭介(くずみきょうすけ)は己が特別な存在であると考えたことはなかった。
 体つきは平均であり、特技もない。
 そこらへんにいる大学生で、色の区別が付けにくい大衆の中の1人。
 異性と青春を謳歌できるほど華やかな外見をしていないし、のめり込める趣味もない。
 他者と違うところを挙げよと言われれば、写真が撮ることを挙げるが、それにしても抜きん出ているわけではない。
 さらに言うと、久住の撮る写真には変なものが写りこむ事が多い。それを怪奇だと囃し立てる学友たちには毎度困り果てている。
 霊能力があるわけではない。平凡なサラリーマンと主婦の息子だ。陰陽師が親戚にいたこともない。
 だからオカルト部に勧誘するのはやめてほしいと常々願っている。
「っ! さっむ」
 秋風が体温を奪うように項を通り過ぎると、久住はコートの胸元をかき集めた。
 たいして温かくならないのはコートが安物だからだと言われたが、金が貯まることのない大学生活。節約して暮らしてなにが悪い。
 つま先に火を灯したとしても、せっかくの1人暮らし。親に見つからない自由な時間のためなら少しくらいは守銭奴にもなろう。
 見上げると空は曇天。遠方に見える黒い雲は雨さえも運んできそうだ。
「まったく、こんなに日わざわざ撮影しなくてもいいのに」
 手を擦り合わせて温めるように息を吐く。
 写真部の部長である神埼から、よい撮影スポットを見つけたと連絡が来たのは朝方のこと。
 気持ちよく寝ていたところを起こされた件については不満を言ってもいいだろうか。
 ふと、久住は己の隣を歩く黒猫を見た。歩調が合っているのか、猫と平行に進んでいく。
 それは偶然でも数分に渡って。そうなると不思議なもので、自分と猫が運命づけられているように感じる。
「君はどこかに行くのか?」
 応えなど返ってこないと知っているが話しかけてみる。と猫は久住を悠然と無視し、小路へと消えていった。
 その様子に、君との運命はここで終わりかと微笑んで視線を戻す。
「ん? ……こんなところに、個展?」
 見慣れない小さな看板が目に留まった。
 いつも通る道なのだがと、しげしげと覗き込む。教授が言っていた、人間は己に興味のない大概の事を記憶せずに生きていると。これもその一つだろう。注視しなければ見えないもの。
「写真の展示か」
 コルクボードには愛らしい文字で『ギャラリー、千葉 見学料は無料です!』と書かれている。
 個人展だろうか。少し剥(は)げた両開き式の木戸は開いており、細い廊下の先には古びたエレベータが1つ。
 興味本位で上階へのボタンを押すと、チンと安っぽい音と共に扉が開いた。
 腕時計を確認する。現在時刻13時14分。集合は現地に14時なので時間には余裕がある。
「ちょっと見てみるか」
 言って久住はエレベータに乗り込んだ。理由などない。
 ゆっくりと閉まる扉が外の景色を奪っていく。ぐんと身体が揺れると上に持ち上げられる感覚がする。随分と緩やかな動きで上階へと向かうらしい。
 築年数が経っている所為もあるだろうが、四方を囲む壁には疵(きず)がやたらと多い。
 その中の一つ、コインで削られた文字に久住は目をとめた。
「あ、い、た、い?」
 歪な風に書かれた逢瀬の願い。恋人へのメッセージだろうか。
 ならばこんな所ではなく、文月に飾られる笹にでも書けばロマンティックになるだろうに。
 チンと、やはり安い音を立ててエレベータがとまる。
 踏み出すと年季の入った木製の扉が出迎えてくれた。
 他にはなにもない。非常階段も。消火器も。窓も。
 誰もいないかもしれないと少し不安になりながらも、手を扉に当て押し開ける。
 軋む音が響く中、古臭い匂いが鼻についた。
 全体的に暗い部屋だ。間接照明しかないせいだろう。小窓は3つあるが、内1つがカーテンで隠されている。
「いらっしゃい。珍しいね、お客さん?」
「いま、やってますか?」
「やってるよ。好きに見てね、他にお客さんもいないから」
 人がいたことに安堵しながら閲覧を訊ねる。
 カウンターにいたのは工具用エプロンを着た女性。セミロングの髪に、少しのたれ目。知的というよりは柔らかい印象だ。
 彼女は猫を模したスリッパを履(は)いている。案外お茶目なのかもしれない。
 そこで久住は、部屋に飾られている写真に色がないことに気がついた。
 アイボリー色の壁にモノトーンな写真が規則的に並んでいる。
「モノクロ写真、ですか」
「若い子はあまり好きじゃないかな?」
「いいえ、見せてもらいます」
 音もない。色もない。白と黒のコントラストが印象的な絵が壁に並んでいる。
 息を吐くと呼吸音すら邪魔な気がして、久住は息をとめた。
 太陽が輝いている場所は強烈に白く、建物は己の存在を隠すかのように黒く染まっている。
 色があって然るべき場所に色がない。その矛盾にひどく惹かれた。
 世には色が溢れていて、人は目を通してそれらを認知する。またそれぞれの色には特定の感情を促進させる効果もあると聞いた事がある。それらが剥ぎ取られた世界。
 飾りつけられたモノすべてをそぎ落とし、ありのままでフレームに収まっている。
 そこにどうしようもなく惹かれる。
 もっと近くで見たいと久住が一歩足を踏み出すと、女性がカウンターから身体を乗り出した。
「なにもないところだけど。お茶くらいなら出せるけど?」
「いえ、お構いなく」
「写真、撮る人?」
「はい、風景画を」
「人は? 嫌い?」
「人は……うまく撮れないので」
 人を撮ると、どうしてもそこにいないモノまで映りこんでしまうから。
 表情を落とした久住に女性も苦笑する。
「そっか。私もね、カラーはうまく撮れないの。色があると駄目みたい」
「……そうなんですか?」
「撮ろうって頑張るんだけど、結局ここに戻ってきちゃって」
「得意分野ということですか?」
「うーん、そういうのじゃないよ。たぶん」
 首を傾げる久住に女性は気にしないでと笑った。
 カラーが上手く撮れない人もいるのだろう。久住が人を上手く撮れないように。
 女性が上手く撮れない原因はなんだろうと考えて首を振る。考えすぎだ。
 出会って数分しか経っていない相手に突っ込んだ話をされても困るだろう。
 久住は視線を写真に戻した。やはり、色のない鮮やかな世界が広がっている。
「綺麗ですね」
「ん?」
「写真」
「ありがとう」
 女性が微笑む。
 それだけでいいと思えた。写真は無理をして撮るものではない。彼女がこの写真らを望んで撮ったのなら、それで十分だ。
 モノクロ写真は撮ったことがなかったが、この期に一度試してみるのもいいかもしれない。
 葉から落ちる瞬間の雫。普通であれば瑞々しい光景が、白と黒の世界だとどこか背徳的だ。
 首を傾けると一角だけ変に黒い写真だらけの場所があった。近づくと乱雑に写真が貼られている。
「これは――」
「ああ、これは……あはは、やだな。外し忘れてたなんて」
 久住についてきた女性は慌てて写真を外しだした。
 写真に収められているのは人々。そして、崩壊した家たち。
 おそらくは、この間に起きた地震のものだろう。写真を片付ける女性の指の隙間から瓦礫などが断片的に見えた。
 あの地震でたくさんの人が死んだ。学友の中にも死んだ人がいたはずだ。葬式に出て、悲しんで、そうしてようやく復興しだした今なのだから。 
 静かな白黒の世界。
 血は黒く映るんだなと久住は胸中で1人ごちた。
 と、ズボンに仕舞った携帯のバイブレーションが、けたたましく出ろとせかしてくる。
「携帯? いいよ、出ても」
「すみません。はい、久住。え? でもまだ時間は……分かりました、今から行きます」
 通話先の相手は用件だけ伝えると返事も聞かず切ってしまった。
 内容は集合場所に今すぐ来いとのこと。
 ツーツーと小さな音が部屋に響いている。
「呼び出し?」
「すみません、待ち合わせ時間はまだなんですが、早く来いって」
「ううん、いいよ。ありがとうね、こんな小さな個展を覗いてくれて」
「いいえ。……あの。また来てもいいですか」
 久住の言葉が意外だったのか、女性は驚いて、しかし嬉しそうに微笑んだ。
「木曜日と土日以外は開いてるよ」
「はい」
 年季の入った扉を押し開き、狭いエレベータに乗る。
 古くて汚いのはさっきと一緒だ。
 けれど。
「あれ? 落書き、消えてる」
 来るときにあった落書きが消えていた。
posted by 日下稔 at 19:00 | Comment(0) | なんちゃって小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする